整理HACKS!まえがき
整理は、仕事のプロセスデザイン
おそらく整理が楽しいという人はほとんどいないでしょう。勉強が楽しいという人があまりいないように、整理はつらい仕事であり、あとまわしにしたい仕事であり、できれば誰かにやってほしい仕事かもしれません。
でも、そんな仕事でさえ楽しくしてしまうのがライフハック。たとえば前著『STUDY HACKS!』では、あのつらい勉強ですら、楽しみながら進められるやりかた=ライフハックをご紹介していきました。キーワードは熱中。楽しいから熱中で きる。熱中できるから勉強の成果があがる。だから楽しい。そこには、正のスパイラルがありました。
今回の整理も同様です。整理は創造性のない、たいくつな仕事のように思っている人も多いかもしれませんが、整理について考えることは、実は本来、創造的なことなのです。
どんなふうに書類を保管すれば、取り出しやすいか、机の上をすっきりさせられるか。どんなふうに整理をしたらスムーズに行くのかを考えるというのは、いわ ば、整理のプロセスデザイン。きちんと整理ができる人というのは、整理というプロセスを美しく設計できる、優れたデザイナーでもあるのです。
本書では、無理なく楽しんで整理できる、整理のアイデアをお伝えするとともに、プロセスについて考える楽しさも伝えていきたい。そんな強い想いで書いています。なぜならそこに、仕事を楽しむ秘訣があるからです。
プロセスデザインが仕事を楽しく変えてくれる
「クリエイティブな仕事があるのではない、仕事をクリエイ ティブにやるかどうかが重要だ。」これは、仕事に行き詰まったときにいつも自分に言い聞かせていた言葉でした。広告代理店に就職し、これから「クリエイ ティブなことをやるぞ!」と意気込んだのもつかの間、新入社員に楽しい仕事がすぐ回ってくるほど、世の中は甘くありません。毎日、ルーティンワークに没頭 していくなかで、新しいものを作り出そうという気持ちが萎えていく自分に気づき、ハッとしました。
シリコンバレーで働いたときも同じことを感じ ました。同じ仕事でも、それを創造性豊かなやり方でやるのがシリコンバレーの流儀。その結果、仕事が楽しくなり、さらに成果が上がっていく。その正のスパ イラルの発端には、「仕事をクリエイティブにしていこう」という創意工夫の気持ちがありました。長時間労働で働くエネルギーを失っていく日本の労働環境を 思い返すとき、「このままではないけない」という思いを強くしました。
整理というテーマは、本来つまらないプロセスであるがゆえに、かえって工 夫の余地がたくさん残されています。書類から始まり、環境の整理、情報整理、生活の整理、思考の整理、人脈の整理という各章は、退屈であとまわしにしてし まいがちな整理の仕事を、いかにクリエイティブにこなしていくかという工夫を凝らしています。ここには、「退屈な整理という作業をどれだけクリエイティブ に、楽しく変えていけるか」ということが、仕事や人生のクリエイティビティや楽しさに繫がっていくのだという強い信念がありました。
高速道路の楽しみ方があるはず
なぜこれまでの整理方法では追いつかなくなってきたのか。その原因は、携帯電話やインターネットの普及にあります。これまでの整理のやり方では想定していなかった速いスピードで情報が行き来するようになり、整理しきれなくなったのです。
例えていうなら、現代は高速道路に乗ったようなもの。町の中をゆっくりと走る感覚で高速道路を運転すれば、交通渋滞を引き起こしてしまうのは当然です。そこには、高速道路に対応した整理の方法が必要になります。
丁寧に分類して、ファイルにまとめて、ラベルを貼り、書類棚にキレイに収納する。たしかにこうしたきめ細やかな整理方法は、ゆったりとした時間が流れてい た時代には機能していました。しかし、あまりに大量の情報が流れていく現代においては、まるで浜の真砂を数えるような行為です。
にもかかわら ず、時間をかけて丁寧に整理しようとする人はたくさんいます。時間がかかりすぎるから、整理できなくなり、結果として整理が苦手だと思いこむ人が多い。実 際は逆で、丁寧に整理をしようとする整理好きだからこそ、情報の流れの速い現代においては、かえって整理できなくなってしまっているのです。
従 来の意味での整理好きの人にはつらい時代です。しかしそこは発想を転換させてみる。高速道路には高速道路の楽しみ方があるのではないかということ。やりか たを変えるだけで、グングン整理されていく爽快感をぜひ味わってほしい。それこそが今の時代において、整理を楽しむということなのだから。
これまでの整理、これからのイノベーション
『整理HACKS!』を書いている間に、サブプライム問題に 端を発する不景気が世の中を覆っていきました。トヨタやソニー、パナソニックなどの日本を代表するメーカーが軒並み、大きな赤字を計上することになりまし た。この大きな流れもまた、僕にはなにかを「整理」しているプロセスのように見えます。
これから日本がどうなっていくのか、どのような方向に向かっていくべきなのか。それを見定めるためには、これまでの成功パターンを一度、整理する必要があるでしょう。やりかたそのものを新しい時代に合わせて、再構築していく必要があるのです。
これは企業だけではありません。個人もまた、これまでのキャリア構築の成功パターンが通用しなくなる時代に突入しています。会社に居続けても展望は開けな いし、かといって転職してもジリ貧になっていく状況を、どうサバイバルしていけばよいのか。めまぐるしく変化する環境において、過去の成功パターンを踏襲 する技能ではなく、新しい成功パターンを発明、発見、構築していくデザイン能力が求められていると思うのです。
これをひとことで言えば、イノベーションを生み出す力であると言えるでしょう。『整理HACKS!』は整理におけるプロセスデザインを扱っていますが、しかし同時に、これはプロセスにおけるイノベーションでもあります。
ハックというのはもともと、単純なカイゼンではなく、発想の転換を含んだイノベーションです。このライフハックシリーズもいよいよ、そうしたイノベーションの領域まで足を踏み入れつつあるという確かな感触を得ています。
今、日本や世界が直面している困難を乗り越えるために必要なイノベーション。それを個人のレベルから生み出していくノウハウとして、ライフハックが必要と される時代になってきています。この『整理HACKS!』をきっかけに、仕事のプロセスに新しいイノベーションを起こしていっていただけたら幸いです。
